料理にワインに競馬に文学。F氏のフランス滞在期


by hiramette

ジル先生のワイン講座


先週末、このブログでもおなじみのレストラン、ジルの「ア・コテ」に一人で行ってきました。

à côté – le bar à vin- ,
14, rue de l’amiral Mouchez
75014, Paris.
tel : 01 53 86 02 45

Nanetteちゃんが日本に帰ってからというもの、料理は自分の分しか作らないし、食べていてもなんだか味気ないです。そんなときジルのところへ行くと、いつも暖かく迎え入れてくれ、楽しい食卓になります。今までに飲んだことのないワインもたくさんご馳走してくれます。

この日の料理は « désinvolte »を注文。メロン、生ハムと、チーズ、それにサラダが添えてある、夏らしい軽い一品です。

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それにしても、このレストランはメニューの名前が変わっています。 « désinvolte »は「勝手気ままな」という意味。何でこんな名前にしたんでしょうか。あと « déconfite »なんていうのもあります。これは油漬けにした鴨肉、« confit »を一度ほぐして、ジャガイモとともに固めなおしたところからこの名がつきました。でも同時にこの単語は「落胆した」という意味の形容詞でもあります。こんなちょっと皮肉っぽいネーミングは、いかにもフランスという感じがします。

さて、料理にあわせて頼んだ肝心のワインですが、一杯目は 、

« Domaine du Vissoux, la griotte »

というボジョレー地方のものを注文しました。ブドウの品種はgamay(ガメ)です。すっきりしつつも特徴のある香りでした。作っているのは Pierre Marie Charnetteさんで、ジルとは昔からのお付き合いだとか。奥さんの名前はマルチーヌといいますが、ジルのレストランにはその名を冠した「ラ・プチット・マルチーヌ」というメニューがあります。ボジョレーや少し南のリヨンで有名な、ソーセージのパイ包み焼きです。

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僕がデザンボルトを食べていると、何も頼んでいないのに、グラスに入ったワインが一杯出されました。そして、「何か当ててみて」といいました。飲むとなんともいえぬ特長的な味。長い年月が経っているものだということは良くわかりました。

答えはサンテミリオンのグランクリュでヴィンテージものの

« Saint-émilion millésimé, Grand cru, Chante Alouette cormeil, 1990 »

でした。超一級のワインで買うと恐ろしく高いものです。味はタンニンが強く、コクが強く肉付きのある味だけれど、最後にほのかなフルーティーさが残ります。ジルの一番上の息子さんが生まれた年を記念して買ったのだそうです。貴重なワインを頂いて 、大変勉強になりました。ワインは本当におもしろい飲み物で、これほど温度や環境によって味が変化するものはありません。本当に奥が深いです。

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3杯目には、もう一度ボルドーの味を確かめるために、

« Château Le Queyroux 2006, 1er côte de Blaye »

を注文しました。このワインはメルロー、カベルネ・ソヴィニオンといったクラシックなボルドーでありながら、とっても特徴があります。一言で言うと田舎っぽい味。気品のある味ではないから、複雑な料理には合わないけれど、牛肉の赤ワイン煮込みなど、家庭的な料理には抜群の相性で、要するに素直で正直な憎めない味です。田舎出身の素朴な人で、東京のファッションなんかは全然知らないけど、正直で真っ直ぐな人、そういうイメージを抱いていただければいいかと思います。僕自身も高校を卒業して田舎から上京したので、なんとなく個人的に共感できるワインです。もちろん味も大好き。

最後の一杯は、ジルのすすめで、

« Coteaux du Loir 2007, les maisons rouges »

の白を頂くことに。最初の印象は桃のような香り、飲むとバニラの香りがしますが、総じて甘くはなくドライなワインでした。結構複雑でおもしろいです。ワインのコルクやラベルにお金をかけていないので、一見安っぽい感じがしますが、実はとてもいいワインです。ワインのことを知らなかったら、ついつい見た目で選んでしまいますが、このワインは中身が本物。お勧めの一本です。

当日は、たまたまお客さんも少なかったので、この後2人でワイン話をしながら盛り上がりました。例えば漫画の話で、彼は日本の漫画『ソムリエ』を持っているそうです。あと、Jules Chauvetさんというワイン醸造学者の話。もう亡くなった方のようですが、ジル曰くこれほどワインの味を的確かつ詩的に表現できる人はいないとのことです。ワインを表現するのに文学的な美しさが求められるのもフランスならではだと思います。でも、言葉の美しさやイメージから物事に興味を持つこともしばしばあるものです。改めて言葉の大切さを再認識しました。

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さらに酔いが回ってくると、メニューの名前の由来の話になりました。例えば先週のブログでご紹介した、豚の頭部のテリーヌにサラダが添えてある料理はtêtue「頑固者」という名前ですが、その由来について彼は語ります。

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「僕は、料理人はある程度頑固じゃなきゃいけないと思ってるんだ。自分で試して、これならいけるって確信したものしかお客に出しちゃいけない。それは、料理でもワインでもそうだと思う。自分の舌で味わって、周りの評判や他人の評価を気にせず、偏見なしに自分の舌で評価すること、それが大事なんだ」

普段は控えめな彼も、お酒や料理のことになったら、だんだん饒舌になってきます。僕はそんな彼の話を聞くのが、講義に参加しているようで楽しいのです。

「僕がレストランをはじめようとした時、みんな僕にトマト・モッツアレラのサラダを作ったらいいとか、ニース風サラダが人気があるからメニューにくわえた方がいいとか、アドヴァイスをくれたよ。でも、僕は嫌だった。そんなメニューはパリ中のどこにだってあるし、僕じゃなくても作れる人はたくさんいる。実際、自信がなくなってトマト・モッツァレラをメニューに入れた事もあったけど、ほとんど売れなかった。それで結局、食って美味いと思うもの、僕じゃなきゃ出来ないもの、要は僕が出したいものにしようと思ったんだ。だから、豚の頭肉のテリーヌのサラダにした。これは僕の出身のオーベルニュのサラダだから。確かに、臓物っぽくて気持ち悪いって言う人もいるけど、僕は自分がいいと思ったものを出すことしかできない。だからメニューの名前は豚の頭 «tête»を使ったテリーヌのサラダであることを文字って « la têtue »「頑固者」っていう名前にしたんだ」

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なんとも学者肌なご意見。ちなみに、彼は本当に本が大好きなのですが、このレストランができる前、ここは古本屋だったそうです。しかも店名が « L’ivresse» 。これは本の « livre» と「陶酔」を意味する« ivresse »を掛けています。「本を読んでうっとりする」というのを言葉遊びで表現しているのです。ジルはこのワインバーを始めるとき、ぜひともこの名前を引き継ぎたかったらしいのですが、「飲んだくれの集う店」というイメージを拭えきれないことから断念し、今の名前にしたそうです。いい名前なのにね。

信じたものは、信じ続けなければならない。決して背を向けてはいけないっていうことですね。自分のテーマに執着し続けること、それは料理人にも、研究者にも必要不可欠なことの気がします。

僕も腐らないでがんばりますね、ジル先生。


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by hiramette | 2009-07-19 20:04 | ワイン